奈良県内の政治経済情報を深掘

2020.8.3掲載  コラム「而今」
 例年とは違う夏だが、いつもと同様に蚊取り線香に火をつける。しばらくすると煙をくゆらせ、どこか郷愁を誘う匂いが立ち込める。この香りに少しの安堵を得る▼新型コロナウイルス感染後の症状の一つに匂いがしなくなるということが報告されている。都心部の繁華街で若者を中心に感染が広がっている。自治体は感染症予防を徹底した店にステッカーを交付して貼り出させるなど取り組んでいる▼しかしながら当然、そのステッカーに何の保障もない。自身や家族を守るためには外出しないことが一番だが、経済活動を再開した以上そうはいかない。自身の経験や社会通念上「におうな」と感じるところへは行かないように自衛しなければならない▼この「におい」が現代、遠くへ行きかけていることを、匂いを奪うという新型コロナに考えさせられる。食品が腐っているのか判断できない、危ないと感じられないなど、現代人のセンサーは著しく低下しているのではないか▼渦巻く混乱のこんな時代だからこそ、退化している「におい」を取り戻さねば。(染)
menu
information