奈良県内の政治経済情報を深掘

2021.11.292掲載  コラム「而今」
 これほどまでに後悔の念を絶つことができないのはどうしてだろうか。もう何年も会えていない人の死。それも、人伝いについ最近知ったからだ▼奈良市東向北町にあった老舗書店「豊住書店」の〝お母さん〟と〝お父さん〟が今年7月と8月に相次いで亡くなっていた。何もかもコロナのせいにしたくはないが、それにしても一目会いたかった▼二人の若い時の顔しか浮かんでこない。書店に入っても、主人のいる気配が感じないのが常だった。しばらくして、奥の方からどちらかがのっそりと顔を見せる。交代での店番が多かった▼他の書店にはない奈良にまつわる本や歴史を題材にした書籍が充実していた。何巻もある『奈良県史』や歴史書を買ったご縁で、奈良町を夜更けまでお付き合いした。〝お母さん〟を送っていったことも度々あった▼人懐っこく、理屈たらたらの青二才の言うことをよく聞いてもくれ、忠告もしてくれた。今その横顔がよみがえってきて悔し涙に変わっている▼江戸末期から150年続いた豊住書店は、数々の思い出を残して店を閉じた。      (寺)
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