2025.12.15掲載 コラム「而今」
「君子、危うきに近寄らず」。古来、自ら災いを招く愚を戒めてきた言葉だが、京都の大谷中学・高校の生徒たちは、バリ島の土産店でこの教えを真逆に実践してみせた▼防犯カメラの映像には、店員の動きを慎重にうかがい、「11番」とサッカーユニフォームの番号を確認し、バッグへ素早く商品を詰め込む〝チームプレー〟を克明に記録していた。店員が近づくと「ハウマッチ?」と繰り返して時間稼ぎ。手慣れた様子から、常習の疑いも持たれている▼150年の歴史を持つ仏教系の学校が「真理を尊重せよ」という校訓を掲げながら、生徒たちは海外で窃盗に及んだ。来年以降の後輩は海外研修の機会を失い、日本人への信頼も揺らいだ▼「バリの法律で裁いてくれ」という声も聞かれる。親の責任を問うより、叱る機会が減り、モラルより要領が優先されがちな私たち大人社会はどうだったかと省みたい▼「悪銭身につかず」と昔の人は言った。少年たちの手に残ったのは、盗んだTシャツではなく消えない汚点だけだ。躾や教育はどこへ向かっているのか。(佑)
