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2019.12.2掲載  社説「時々刻々」

無投票選挙戦で経費4倍 争点なき不幸な選挙

論説委員 染谷 和則

 任期満了に伴う桜井市長選は当初無投票が予想されていたが、NHKから国民を守る党が出馬し、一騎打ちになったものの市民の関心度は低く、投票率は33・38%と低調に終わった。市選挙管理委員会によると、今回の選挙戦にかかる経費は約2000万円を見込んでおり、無投票だった前回平成27年度の経費の約550万円と比較して約4倍にもなる。
 今回の選挙選は、現職の松井正剛市長の2期目の市政運営に対する評価が〝本来〟の争点。「現職の松井市長に3期目も」の民意がほぼ形成されていた同選が、N国党首の立候補で急転直下の選挙戦になった。
 市選管によると、前回選の無投票の選挙経費は約550万円で、選挙戦になった前々回は1700万円。今回は集計ができていないが、消費増税や物価上昇分を考慮して2000万円弱の選挙経費を見込んでいるという。「党勢拡大のための出馬」と明言し、桜井市長選へ乗り込んできたN国。同党の〝宣伝費〟に桜井市の血税が使われた結果になる。
 奈良県の39市町村の財政は厳しい。これは全国と同様に高齢化による税収の減少や、社会保障をはじめとする扶助費の膨張などの理由もあるが、平成の合併が進まず、それぞれの自治体が独自で事業を展開していることも大きい。
 今号で報じた大淀町も昨年度の一般会計決算の経常収支比率が初めて100%を超え、このままでは令和3年度に基金(貯金)が枯渇する試算になっている。これを打破するため町は財政再建のための計画を進めており、15年続いているという夏の花火大会への補助金400万円を来年度はカット、さらに通学費の補助や中央公民館の閉館、グラウンドの使用料の値上げなど町民に負担と我慢を求めるコストカットを進めようとしている。
 桜井市の財政も同様に昨年度一般会計決算の経常収支比率は102・6%で、39市町村中ワースト6。一昨年度の103・6%のワースト1から改善したものの、厳しい状況が続いている。
 こんな中で争点のない選挙戦。立候補者も「ぶっこわす」と連呼するのみで桜井に触れることはほぼなかった。N国の次期衆院選のための党勢拡大のために、血税が使われたこの選挙、モラルと倫理観がぶっこわれた選挙戦と総括せざるをえない。
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