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2019.12.30掲載  社説「時々刻々」

県内中小企業の「後継者不在率」最悪 将来見据え適切な世代交代を

論説委員 寺前 伊平

  奈良県内の中小企業にとっては、ショッキングなデータかも知れないが、後継者が決まっていない「後継者不在率」が56・6%と半数を超え最悪となった。 民間の調査会社東京商工リサーチの調査結果からだが、事業承継が上手くいっていない証として表れた。近畿2府4県でワースト1、全国でもワースト12位と深刻な数値である。
 否応なしにも、経営者が高齢化していくことは避けられない。引退する時機を逸し、放置しておくことの危険性は火を見るよりも明らか。中小企業者や小規模事業者の廃業へとつながる。
 昨年の奈良県内の倒産は100件。倒産の2・67倍にあたる267件が廃業だが、構成比でみると60歳以上の経営者が84%。県内の小規模事業者を含めた企業は約3万6000社で、この5年間で1200件以上が廃業となっているのが現実。
 全国的にこうした状況で推移すると、試算では団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年には累計で約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性があるという。
 そうならないために、国は社外の人材に引き継ぎやすくするための具体化に動き出した。例えば、中小企業が不要になった設備を廃棄する際の費用の補助、引き継ぎに伴う登録免許税など税の軽減措置の2年間延長―などだ。
 社業を引き継ぐのに、社外人材に求めることに何ら異論はないはずだ。60歳を超えてからの適切な世代交代は極めて重要。国は社外人材育成などで、向こう10年間で約60万件の承継実現を果たしたいとしている。
 県内で事業承継を上手く果たした若手経営者には、将来展望を描きながら積極的な動きに期待したい。その中には海外展開も視野に入れるべきだ。
 確かにリスクはあるものの、海外は利益率の高い商売ができる可能性を含む。そういう意味でも、県内の中小企業にとってインバウンド増加は好材料。自社の強み、弱みを戦略的に上手く組むことが重要である。
 毎年7月20日を「中小企業の日」、7月の1カ月間を「中小企業魅力発信月間」とすることが今年決まった。法律や県小規模企業振興基本条例の支援を受けながらも、魅力ある社を構築していく経営者の姿勢こそ求められている。

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