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2020.3.30掲載  社説「時々刻々」

不正入札問題を追及する百条委設置を否決 議会の主体性を自己否定した日

論説委員 染谷 和則

 五條市が建設したシダーアリーナの備品購入をめぐる元職員などの不正に対し、市議会が出した答えは積極的ではなく消極的―。3月24日は〝五條市議会が〝品格を失った日〟とか〝独立性を自己否定した日〟と言っても過言ではない。市議会の歴史の中で特に記録され、市民の記憶に残すべき日になった。
 数千万円ともささやかれている血税が、不正に関与した元職員や業者をはじめ、一部の輩に搾取された可能性が極めて高くなっている中、偽証や正当な理由なく証人喚問を拒否すると刑事罰などが科される強い権限のある百条委員会の設置を否決した。採決は5対6。真っ二つに分かれた。
これまでに県警は、不正に関与した元職員、業者から事情を聴取。そこで得られた証言を元に現職市議の関与も視野に入れた捜査を進められているものと見られるが、いまだに進展はなく市議会3月定例会は開会してしまった。疑惑の渦中にいる現職市議も本会議や委員会に出席して予算審議。太田好紀市長は開会前の委員会で「重要な来年度の予算案を決める場に、そのような人物が審議するのは耐えがたい」と踏み込んだ発言をして批判した。
 昨年9月から行ってきた調査特別委員会では、入札時に非公表になっている市の内部資料が業者に漏れていることや、それらの業者が交互に落札を繰り返していたこと、問題の業者が存在しない「代理店」を経由して商品を仕入れていたこと、領収書の偽造…など、次々と不正の疑義が生じている。不正を経て輩に血税が渡ったのはほぼ間違いない。それを精査しなければ、納税者の市民を愚弄することにならないか。
 捜査をする警察の役割と、公金の使途を審議する市議会の役割はまったくの別。次元が異なる。これを混同し、百条委設置を「司法当局の捜査の進展を注意深く見極めるべきで設置は今の段階ではない」と拒んだことは、独立した市議会を自己否定し「県警の意向を待つ、県警ファースト」を体現してしまった。市議会の責務を後に回して…。
 不正問題に揺れに揺れた五條市議会3月定例会は、発議された百条委設置の否決をもって閉会した。五條市民の皆さんには大変残念なニュースになるが、事件として追う県警の捜査が進展しない限り、五條市議会は動かない。市民が被った損害額の全容解明は先送りにされた。
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