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2020.8.3掲載  社説「時々刻々」

パワハラ防止法施行から2カ月 宇陀市の亡き職員にどう報告

論説委員 寺前伊平

 6月1日から「パワハラ(パワーハラスメント)防止法」が施行された。ハラスメントには35種類あるが、パワハラは人の人生を変えてしまいかねない重大な人権侵害をはらんでいる。最悪の事態は、人を精神的苦痛に追いやり、尊い命を自ら絶たせてしまうということである。
 今年2月に自死した、元宇陀市立病院事務局の情報システム管理室長の男性(当時59歳)に関わる内部調査報告書の概要が公表された。パワハラと思われる上司からの叱責(しっせき)が、1年2カ月もの間に繰り返されていたのである。皮肉にも、前市長と議会との政治的対立が深まっていた時期とも重なる。
 市立病院で電子カルテシステムウイルス感染時、男性はその対応や報告書の作成など、ほぼ一人で働き続けていた。期限内の対応を迫られ、上司や県からは執拗な指示があり、その責任の重大さに神経をすり減らしていた。事務量の多さ、議会への対応の仕方、職場全体としての取り組みのなさ―に苦悩していたことが報告されている。
 男性が周囲によく口にしていた「八方ふさがりだ」からは、男性の苦悩が読み取れる。総務部長は「組織の中で様々な問題をお互いが助け合い、理解し合いながら進めることがなぜできなかったのか、悔やまれる。痛恨の極み。特別職、市職員全員が心に刻まなくてはならない」と述べている。
 このことは、官公庁のみならず、民間の大企業、中小企業、諸団体とて同じこととして肝に銘じるべきだ。民間の人材総合情報サービス会社「エン・ジャパン」の「パワハラ防止法」施行に合わせた30代、40代を対象にした意識調査結果がある。
 それによれば、パワハラが起こる理由のトップ5は順に▼パワハラをする人間性の問題▼上司と部下との信頼関係の欠如▼企業のパワハラ対策の不十分さ▼育成・指導方法に対するジェネレーションギャップ(価値観の相違)▼上司と部下とのコミュニケーション不足―だった。
 パワハラをなくすための方法では、「パワハラについて学ぶ機会を設ける」「パワハラの定義を明確にする」「第3者機関による社内風土のチェック機会をつくる」が多かった。驚くのには3人に1人が「自分の行動がパワハラに当たるのではないかと思ったことがある」と回答したことだ。
 宇陀市が立ち上げる「有識者会議」は、せめてもの自死した男性への供養と受け止めたい。パワハラの責任問題を含めた検証、今後の歯止め対策などの提言を待ちたい。
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