奈良県内の政治経済情報を深掘

2020.8.10掲載  社説「時々刻々」

定住でも交流でもない新たな地域づくり 「関係人口」の増が地方発展の鍵か

論説委員 染谷和則

 総務省が「地域への新しい入口」としてのキーワド「関係人口」を提唱している。移住した「定住人口」でも観光に来た「交流人口」でもない、その中間域に属する新たな概念で、その地域に関わる地域外の人材が地域づくりの担い手となることに期待し「関係人口創出・拡大事業」に取り組んでいる。この言葉に地方自治体の生きるべき希望があるかもしれない。
 この事業、地域外の人が「関係人口」となる機会・きっかけの提供に取り組む地方公共団体を支援してくれる。例えば、奈良県内の39市町村では、農業の担い手の減少や高齢化の課題に直面する明日香村が「あすかオーナー制度」として、農村にある棚田や果樹園などのオーナーを全国から募集。田植えや稲刈り、収穫といった農作業を体験できたり、地元農家から栽培指導を受けることができる。
 また下北山村では、「森で育む学生拠点創造プロジェクト」として、都市部の学生と地元住民が交流を通じて空き家の改修やリノベーションのDIYを行い、それを拠点として整備することで継続的に下北山村と関わりを持つようにしており、これらを総務省が支援している。
 民間でも「関係人口」への動きが。大阪ガス都市開発などが手掛ける分譲マンション「シーンズ上本町」(大阪市天王寺区上本町8)は、全国初の多拠点居住のサービスを開始した。これは同マンションを購入すると、事業の関連会社が管理する全国約60カ所の自然や歴史が豊かで、家具やWi―Fiなどが備わった家を2カ月間無償で体験することができるサービス。
 同社では、都市部と地方部の両方に暮らすという新たなライフスタイルを提案するとしており地方における「関係人口」の増加が、今後の新しい価値のスタンダードになっていくのではとしている。新型コロナウイルスの蔓延により、仕事のやり方、暮らし方、人との関わり方など、すべての概念が変化を遂げようとしている中、この「関係人口」が、今後の地方の発展のキーワードになりうるかもしれない。 
 旅行や観光をはじめとするさまざまな業種が苦しむ中、奈良の経済は厳しさを増す―。単なる往来だけでない、人と人、人と地方の新たな関係について今こそ考えるべきだ。
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