奈良県内の政治経済情報を深掘

2020.9.21掲載  社説「時々刻々」

夏場のごみ不法投棄 奥吉野のもてなし逆なで

論説委員 寺前伊平

 奈良県南部地域、とりわけ奥吉野と呼ばれるところは、静かな山あいに清流があり、数々の名所が各地に点在する。自然の営みの中で、都会から訪れる人たちに対して最大限のもてなしをしている。
 そんな温かみを持ち続けている地元の人でも、顔をしかめたくなるような現実が目に入った。一握りかもしれないが、キャンプやバーベキュー、川遊びで楽しむだけ楽しんで、ごみを現場に残したまま帰ってしまう不心得者がいることである。
 県議会でも問題になった。この夏場、天川村や東吉野村では新型コロナウイルス感染症の中、密閉・密接・密集―のいわゆる「三密」による感染リスクが高まることから、アウトドアのレジャーを選択する人たちが例年にも増して訪れた。その後始末が、ごみの不法投棄による回収作業となってしまった。
 天川村では3年前、東吉野村では今年度に入って、村の自然環境や生活環境を守るための条例を施行。天川村では天ノ川など公共河川敷でのバーベキューを禁止する代わりに、旧小学校跡地内にバーベキューも可能な多目的施設をつくり、予約を始めたばかりだった。
 また、東吉野村では村内を流れる高見川河川敷でのバーベキューなどの利用者が増加の一途。野外活動により発生する調理くず、バーベキューの網、使用後の炭などが河川敷やその周辺に放置され、悪臭やハエの発生の原因ともなり、住民から苦情も続出。条例を施行した矢先の〝ごみ騒動〟ともなった。
 天川村の悪質な例として報告されているのは▼キャンプやバーベキューの道具をすべて放置しての帰路▼閉鎖された河川公園への無断侵入▼道路や空き地に無断駐車してのバーベキュー▼帰り道に道路や河川、山の中にまでごみの不法投棄―だった。怒りさえ覚える。
 廃棄物処理法によれば、個人が不法投棄した場合には「5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方の刑に処する」と規定されている。血の気が引く人がいることだろう。
 家族連れで来村しているケースが目立つ。だとすれば、ごみを不法投棄した親の背中を子どもたちは見ている。または「見させられた」かもしれない。何も両村だけに限った問題ではないが、子どもの成長過程で放っておけない親の教育責任である。
menu
information