奈良県内の政治経済情報を深掘

2020.10.12掲載  社説「時々刻々」

冷え込む県と奈良市の関係 県議は仕事を果たしているか

論説委員 染谷和則

 リニア中央新幹線の中間駅を大和郡山市に誘致すべきと「県にリニアを!」の会の総会で提言書がまとめられた。提言書は県の荒井正吾知事に提出する。総会には県内36市町村の首長らが出席、ここに奈良市、生駒市の姿はない―。両市は当初からそれぞれにリニア中間駅を誘致する考えでいる。同じゴールに向かい、歩みを共にはできていない体制が続いている。
 そんな中、奈良市が新たな企業誘致策を打ち出した。コロナ時代の都市部からの移転ともう一方は開発や製造などの大型企業誘致を直接支援するもの。
 県と奈良市で結ばれているまちづくりに関する包括協定の中、JRが新駅を設置し、京奈和自動車道のインターチェンジが新設される県内唯一の鉄道と高速道路の交通結節点になる八条・大安寺地区は、多方面で注目が集まる。
 奈良市の今回の新たな企業誘致策は、これらの地域を見据えた意向も含まれると見られる。ただこれらのまちづくりのデザインは、先述の県と市の協定を基に肉付けをしていく必要がある。しかしながら、奈良市内の他地域でのまちづくりもしかり、両者の関係性の〝冷え込み〟から、進展の速度は遅いことが指摘されている。
 冷え込みは市役所の耐震か、建て替え移転かの問題に端を発する。移転をすすめる県とコストを重視して耐震補強で済ませたい市の意向がまったく異なり平行線に。それ以前からの消防県内一元化・広域化やリニア誘致など互いの意向が異なった長年の〝対立傾向〟が徐々に溝を埋めつつあった中、再びその溝は深まってしまった。
 今後注目が集まる八条・大安寺地区だが、民間はこの県と市の動きに左右されてはたまらない。両者ともに独自施策は結構だが、手を携えるべきところは私情を捨て、県土のデザインを進めなければならない。不幸を被るのは県民と市民だ。
 県と市、どちらに非があるとは断定できない部分があるが、「県と市のパイプ役として…信頼と実行」などと選挙では聞こえの良いスローガンを訴えていた県議が仕事をしているとは思えない。長く続く県と奈良市の〝冷え込んだ関係〟を改善できないままただただ県議の当選回数を重ね、政権与党の重役を担う「風見鶏」の行動が、県と奈良市の最たる不幸であると言わざるを得ない。
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