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2020.12.14掲載  社説「時々刻々」

「奥大和」の魅力再認識 働く拠点と人材育成急げ

論説委員 寺前伊平

県南部地域、東部地域を合わせて「奥大和」というくくりを耳にするようになった。新型コロナウイルス感染症がいまだに猛威を振るっている中ではあるが、この「奥大和」の響きに一種の安堵(あんど)感さえ覚える。 というのは、新型コロナ禍で街中ではほとんど、屋内外問わず各種イベントが中止となった。そんな中で、自然に恵まれた奥大和の魅力を再認識させられる新しいイベントや、関係人口・移住につながる動きが出始めているからだ。 今秋、曽爾村、吉野町、天川村の自然を舞台に、3時間から5時間歩きながらアート作品を巡り、地域の魅力を再発見できる芸術祭が催された。「MIND TRAIL 奥大和」という全くの〝新メニュー〟に度肝を抜かれた人も多いのではないだろうか。 こんな時世だからこそ、何事も発想の転換が必要である。国の観光施策「Gо Tо トラベル」、県の県民限定クーポン「いまなら。キャンペーン」と絡ませた効果が、周辺地域への誘客を生み出し、観光産業回復への手がかりをつかんだに違いない。 荒井正吾県知事も開催中の県議会本会議の中で、奈良市観光協会長が生まれて初めて天川村洞川を訪れ、その素晴らしい魅力に触れて帰った話を紹介。その上で、県南部地域の観光宿泊施設は、前年を上回る予約状況にあると報告するほどだ。 今「ワ―ケーション」という新しい観光の在り方が出てきている。自然が豊かな奥大和地域で仕事をゆったり、リフレッシュしながらできる、新しい自由な形での生活様式に行政が後押しできるシステムづくりが、一方では必要である。光ファイバー網を整備し、働く若者移住者を支援する奥大和の自治体もある。 奥大和の抱えるテーマはやはり雇用の場。ようやく用地が確保できた京奈和自動車道御所インターチェンジ周辺の産業集積地形成プロジェクトが完成すれば、奥大和地域の通勤圏内となり、大きな雇用が見込まれる。大和高原地域において、名阪国道周辺での産業集積地の拠点形成も同様だ。 最近の大都市集中への懸念、若者の田園回帰の流れに加えて、新型コロナを契機に奥大和への注目が高まりつつあると見るべきである。奥大和で活躍できる起業家、クリエイターの育成セミナーや、移住者を対象とした起業、創業のための研修も重要であると考える。 奈良県の均衡ある発展は、働く拠点形成の上に立った奥大和の人材育成と関係人口・移住者の動向にかかっていると考えてもいいのではないか。
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