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2021.1.18掲載  社説「時々刻々」

天理大ラグビー日本一の意義 コロナ禍で「一手一つ」に学べ

論説委員 寺前伊平

政府は13日、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言の対象区域に、これまでの首都圏4都県に加えて、大阪、京都、兵庫、愛知、岐阜、福岡、栃木の7府県を追加する措置をとった。 大都市圏を中心とした感染防止策の強化が狙いだが、ラグビーで天理大が初の日本一となったうれしいニュースの矢先、今度はラグビー・トップリーグで思わぬ事態が発表された。 新型コロナに感染した選手が多数確認され、開幕の2試合が中止と決まったからだ。陽性反応、濃厚接触者のアスリートらの症状が気になるところではあるが、まずはできるだけ早く回復することを望むところだ。 ラグビー競技の特性は、大所帯で密になりやすく、練習試合などで身体接触を伴うことは避けられない。それだけ集団感染リスクが大きいと言わざるを得ない。細心の注意を払っていても、一人感染者が出れば広がり、濃厚接触者が多く出るのはやむを得ないかもしれない。 ところが、昨年8月にクラスター(感染者集団)が天理大ラグビー部の寮で発生した折、当事者や周辺学生への偏見、誹謗中傷、差別が露呈。 とくに、ラグビー部員らは練習を中止せざるを得ない事態となり、関西大学Aリーグへの出場も危ぶまれたほどだ。 新型コロナ感染拡大の中、全ての人が健康状態でいられるよう、大変なストレスを抱え込みながら、日々生活をしていることは納得できる。ただ、集団感染による誹謗中傷の矛先が、選手に向けられたことほど、つらいものはない。 選手らは、そんな思いをしながらも、練習できない分を地域に向け、ごみ拾いなどボランティア活動に積極的に動いた。そんな姿を目にした地元のラグビースクールからは応援動画、天理ラグビーを愛する一般市民、大学のOB、OGからは激励メッセージが届き、どれほど励まされたことか。 そして、天理大学の永尾教昭学長と天理市の並河健市長が連携し、不当な差別につながらないように意を尽くした対策を駆使した。結果、9月中旬からの練習が再開できることになった。 「一手一つ(いってひとつ)」。天理時報社に貫かれている基本精神である。何もかも違う人間同士が、心を一つに結び合うことで、一つの目標をそれぞれの立場から精一杯努力して、完成させることである。 天理大ラグビー部員は「日本一になって恩返しを」との思いで心を一つにした。トップリーグでも、心一つで困難に立ち向かってほしい。
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