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2021.10.11掲載  社説「時々刻々」

魅力ある、儲かる農業とは 苺や軟弱野菜の周年栽培へシフト

論説委員 寺前伊平

 県内の米の収穫時期が、山間地から盆地へ移行してきた。稲穂が黄金色に垂れ下がっているところを見ると、昨年のような病害虫被害もなさそう。ただ今年は長雨の影響で日照時間が短かかったため、米の出来栄えが気になるところではある。
 毎年、気候変動や病害虫の被害などで米価が下落することが、幾度となく繰り返されてきた。水稲と露地作物に依存する農業経営では、収益性が低く将来の活路さえ見えにくくなってきている。後継の担い手が、土地を離れそのまま戻ってこない例も少なくない。
 県内では現在、自営で農業に従事している基幹的農業従事者の平均年齢は69・5歳。全国平均の67・8歳と比べても高齢化が進んでいる。加えて耕作放棄地が多く、将来的に農業の担い手の育成・確保が喫緊の課題だ。
 農水省が推進している「人・農地プラン」では、農業者が話し合いに基づき、地域農業における中心経営体、農業の将来の在り方などを作成することになっている。県下では239集落(9月末現在)が取り組んでいる。今年度末までに400以上の集落で作成予定だという。
 県・市町村・地域が一緒になり、今後の農業を考えていくというものだが、農業の担い手を育成・確保するには「魅力ある農業、儲(もう)かる農業」でなくてはならない。  県内の7地域で「特定農業振興ゾーン」が形成されている。その一つ、広陵町寺戸地区(3・4㌶、26農家)では、観光資源を活用したイチゴ産地の復活とともに、水稲作はゾーン周辺の水田を含め、集落営農の組織化を目指している。
 そのため▼新規のイチゴ栽培者の誘致▼就農に必要な技術を取得する広陵町「農業塾」で新規就農者の養成▼高設栽培施設などの整備▼ICT(情報通信技術)の活用支援―を継続して実施している。新規就農者の誘致に成功した例として、高評価を受けている。  農地の効率化と地域の農業を活性化していくには、高収益作物への転換が必要。イチゴやコマツナなどの軟弱野菜は、ハウス栽培なら冬期でも収穫可能で、1年通して雇用・収入が見込める。
 農協も農事法人との連携を強めながら、スーパーマーケットや外食産業との直接的な取引とともに、中玉トマトや軟弱野菜へシフトを強める時期にきているのではないか。
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