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2021.10.25掲載  社説「時々刻々」

債権放棄で奈良市臨時議会、市民とプロ市民の存在

論説委員 染谷和則

 衆院選の動きが加熱する中、奈良市の動きも慌ただしくなってきた。衆院選挙終盤の28日、急きょ臨時議会が開かれることになった。裁判沙汰にもなった新斎苑建設の用地取得費に関する議案だけに、党派を問わず市議らからは「衆院どころではない」との声も聞かれる。
 市が新斎苑建設のために購入した用地の取得費が高すぎるとして、市民団体が市に対し、仲川元庸市長個人と地権者2人に損害賠償を支払わせることを求める住民訴訟は、上告審で最高裁が、市と市民グループ双方の上告を退けた。仲川市長個人と地権者2人で計1億1640万円の損害賠償を市が求めることを命じた2審判決が確定。市の敗訴になる。
 この市の債権を放棄することが今回の臨沂議会の議案。賛成するか、反対するか。市議それぞれの思惑が交錯しており、それは同一会派内で意見が割れているところも。自民会派はまさに賛成と反対が真っ二つ。ここぞとばかりに市議らのSNSに「反対しろ」などと執拗に書き込む自称「市民」も。
 さらには、訴訟していた市民団体から市議らに圧力も。中には「反対に回れば、訴えると迫られた」「(反対すれば)お前にも損害賠償を請求する訴訟を起こす」など過激な発言もあったと、市議らは本紙に証言する。
 この「市民団体」という中身の見えにくい方々は、時に行き過ぎた〝プロ市民〟になる。今年7月に行われた奈良市長選、奈良市議選の際も、告示間際に現職の立候補者らに対し、債権放棄の議案が出された場合、どのような態度を取るかを問う「公開質問状」を送付。その回答を「ホームページで公開する」と迫った。選挙に投票する際の判断材料は多ければ多いほど良いが、その当時も市議らからは「嫌がらせ」「出てもいない議案に対し答えろはひどい話」との声があった。
 旧態依然としたこれらの手法はメディアもしかり。「書くぞ」「放送するぞ」。その手法で迫り、適当な取材で名誉棄損の記事を掲載し、敗訴したメディアも。記事は消しゴムでは消せないが、社会悪であれば、存在そのものを消すことはできる。
 それぞれの立場で、正義があるが「はき違えた正義」や「市民団体」の裏で糸を引く存在が見え隠れする〝プロ市民〟は果たして公に資するものか。
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