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2021.11.1掲載  社説「時々刻々」

65歳以上の労働人材確保 社会貢献事業の従事も視野に

論説委員 寺前伊平

 65歳以上の働く意欲のある高齢者が目にとまる。企業は法律で、65歳までの雇用確保が義務付けられ「定年引き上げ」「定年制の廃止」「継続雇用制度の導入」のいずれかの方法を採る必要がある。
 60歳定年で年金暮らしに入る良き時代は、遠い昔の話。年金額も目減りし、健康なうちに働けるだけ働くことへの願望がそうさせているのだろうか。企業としても、長い経験に裏打ちされた技術などを社員に受け継いでもらういい機会として受け止めている。
 改正高年齢者雇用安定法により、今年4月からは65歳以上の就業確保が「努力義務」になったことで、働く意欲のある高齢者が多くなっているようにさえ思える。労働者不足による高齢者雇用の対応を急ぐ必要性に迫られているからだ。従来の方法に加えて、フリーランスのような形で働く業務委託契約も結べるようになった。
 奈良県の65歳以上の人口は、平成12(2000)年の23万9432人から令和2(2020)年の41万6467人まで、一貫して増え続けており、高齢化率も16・6%から31・8%に上昇している。
 特に来年度から、団塊の世代が75歳以上(後期高齢者)になり始める。団塊の世代が全て75歳以上になる令和7(2025)年、いったんは減少に転じるものの、同22(2040)年には高齢者人口がピークを迎える。
 そうなると、医療、介護、年金といった社会保障費の拡大は避けられない。これらを若い世代が負担して、高齢者を支えるというこれまでの構図は限界に来ている。高齢者に対して、働ける機会を長く持ってもらうよう制度を変革していくことが重要である。
 10月1日に発効された令和3年度の奈良県の最低賃金は866円。全国平均が930円だから、最も高い東京都の1041円は別としても下の方のランク。
 65歳を超えると、足腰の痛みに眼精疲労が重なり、体力の衰えが少しずつ忍び寄る。病気などでいつ不測の事態に陥るとも限らないが、「働けるうちはいつまでも働きたい」という元気な高齢者が増えてきているのも確かなようだ。
 いずれにしても、労働者の人材不足解消は喫緊の課題である。そのためには、高齢者との継続的な業務委託契約の締結や社会貢献事業に従事できる制度の導入などをさらに広げていってほしい。

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